○奥野委員長 次に、重徳和彦君。
○重徳委員 維新の党の重徳和彦です。
通告の順序を変えまして、先に裁量保釈について、きょうの本来テーマでありますので、質問をさせていただいて、残りの時間で、前回までで聞き漏らしていた司法取引についての質問をさせていただきます。
まず初めに、大臣にお伺いします。
今回、刑訴法九十条が改正となりました。これを読み解くに、私なりに見ると、「裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、」とあります。この前段部分は、この九十条には今までなかったですけれども、見てみると条文の随所に出てきた見なれた文言でありまして、ですから、これは確認的かつ勾留のいわば本来目的であろうかと思うので、まさに確認的に書いたような感じがするんですね。その後は、「身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、」というのが入ります。これは、今回の改正のまさに趣旨というか、今回新たな改正だということが言えるのではないかと思うんです。
まず、今の点も含めて、今回の改正の趣旨について改めて御答弁いただきたいと思います。
○上川国務大臣 刑事訴訟法の第九十条の改正ということでございますけれども、これは現在の運用についての特定の事実認定を前提とするものではなく、まさに委員御指摘のとおり、裁量保釈の判断に当たって考慮すべき事情について、実務上確立している解釈を法文に明記することによってその内容をできる限り明確化し、また、国民の皆さんにわかりやすい制度とするという趣旨でございます。
これによりまして、保釈の適正な運用にも資するものというふうに考えております。
○重徳委員 実務上確立している解釈ということでございます。
それを前提としますが、今私が申し上げました前段の被告人の逃亡または罪証隠滅、これはいわば当然のことかなと思うんですが、要は、後段が認められるということは、被告人にとっての不利益の程度を勘案して、これ以上拘束すると健康的に問題が出るとかいうことで保釈をするということでありますから、前段は勾留する理由に当たり、後段は保釈する理由に当たるということで、その両者を勘案してバランス上どっちに重きを置くかというような条文構成になっているように見えるわけでありますが、大臣、実務上確立しているということでありますから、確認的に書いたということであって、これによって、特段、何も変わらないということなんでしょうか。
実務上はもちろん、午前中に浜地委員が、こういう項目について保釈理由を申し立てればいいんだということが弁護人としてわかりやすいという意味では、なるほどなんて思っていたんですが、ただ、実質的に判断をするに当たっては何も変わらないということなんでしょうか、確認願います。
○上川国務大臣 まさに現行法の九十条におきましては、「裁判所は、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。」ということで、この条文のとおりということでございます。
そして、改正におきまして、保釈の判断に当たっての考慮事情ということで、「保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、」ということで、「身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、」との文言を加えるということにしたところでございます。
現実に、こうした判断にのっとって、全体的に、総合的に判断をしているということでありますが、保釈を申請する場面におきまして、こうした健康上、経済上、社会生活上または防御の準備上の不利益の程度その他の事情ということについて考慮をしているということそのものを明示するということは大変大きな前進ではないかというふうに思っております。
これは保釈そのものの適正な運用ということにも資するものというふうに私は考えております。
○重徳委員 言葉尻を捉えるわけじゃないですが、この条文を加えることによって適切な運用がなされるということは、今まではいろいろと不適切な場合もあり得た、だからこそ適正化するんだというふうにも捉えられなくはない御答弁なんです。
一般に、被疑者が逮捕されてから、皆さん御存じのとおり、四十八時間足す二十四時間、七十二時間のうちに勾留請求あるいは釈放するということでありまして、そこから先に、さらに十日、十日というふうに勾留延長がされ、また、起訴されますとそのまま勾留が続くということでありますけれども、本人または弁護人から保釈の請求があった場合には、まさに九十条に基づいて裁判所が保釈を許すかどうかを判断するわけですが、これに対して検察官も意見を述べる、実際上のでしょうか、法律に基づく運用じゃないかもしれませんが、検察官側も意見を述べるということでありまして、そういうことを勘案して、保釈するかどうかを判断するということでございます。
ここで、林局長にお尋ねしたいんですが、本日も再三話題になっております村木事件において、百六十四日もの勾留が行われた、そして保釈の請求も四度目でようやく認められたというふうに聞いているんですが、保釈の判断が実質的には今回の法文にのっとったような判断をされていたということなのかもしれませんが、でも、結果的に、余りに長い拘束であり、また、その間、村木さんがどうやってそれを耐え、しのいできたかなんていうことがいろいろな文章でも書かれているものを目にするわけなんです。
この百六十四日もの勾留というのは、客観的に言って、これはえらいことだったな、しかも、結果的には冤罪なんだから大変なことだったというふうに一般的に見受けられるわけですが、この百六十四日間の長期間の勾留というものを問題だというふうに捉えていらっしゃいますか。問題なかったということなんでしょうか。そして、問題だとすれば、それはどこに問題があったと捉えていらっしゃいますでしょうか。
○林政府参考人 御指摘の事件につきまして、被告人とされた村木さんは、起訴後四カ月以上にわたって保釈が許可されず、身柄拘束が続けられたものと承知しております。
この場合の保釈を許可するかどうかについては、その当時の証拠関係等に基づいて裁判所において判断された事柄でございますので、そのこと自体につきましては、法務当局として言及することは差し控えさせていただきたいと思いますけれども、本件につきましては、検察による逮捕、起訴自体が捜査を尽くされないまま行われたことなど、さまざまな問題があったものと承知しております。
これに鑑みますと、起訴後の身柄拘束が長期間にわたり継続することになったという点に関しましても、その間の保釈請求に対する意見等の検察の対応に問題があったということは否定できないと考えております。
○重徳委員 率直に問題があったことは否定できないという御答弁であります。
今局長がおっしゃったのは、その逮捕、起訴そのものに問題はもちろんあったわけなんですが、あったというふうにお認めの上、保釈請求が認められなかったという部分には余り触れられなかったんです。
今回、保釈をする判断において、先ほどから繰り返しているように、前段部分はいわば当然の規定であるとした場合、後段の、被告人の「健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情」というものは、村木さんの場合どのように勘案されたかなんというような分析といいましょうか理由はどこかで明らかになっているんでしょうか。それとも、それは総合的にやったんだからよくわかりませんということなんでしょうか。
○林政府参考人 保釈の請求が数次にわたって却下されたということ自体は、裁判所における判断でございます。裁判所においてどのような考慮過程を経てそのような決定がなされたかということについては、これはつまびらかにされていないところでございます。
他方で、先ほど申し上げました検察の対応といたしましては、そこの判断に至るまでの間に、検察としては、保釈請求に対する意見というものを求められたわけでございます。そこにおける対応につきましては、本件自体が十分な捜査を遂げないままの起訴がなされたという点を鑑みますと、その対応に問題があったと考えておるわけでございます。
○重徳委員 今回、九十条の改正でありますので、この改正条文の文言に沿ってちょっと確認をしたいと思うんです。
そもそも逮捕、起訴の判断そのものが問題だったとか、村木さんの事件一例を取り上げるのが適切かどうかはちょっとわかりませんけれども、最終的には裁判所の判断なので、これは裁判所における運用の問題かもしれませんが、今回、私がここで確認したいのは、逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれだけじゃなくて、せっかく、被告人の健康上、経済上、社会生活上などの事情を考慮するというふうになった以上は、保釈を認める場合であれ認めない場合であれ、その理由というものをこの条文にのっとって何かしらの形で明記、明確にするなんというようなことは、これは裁判所のことだから何とも言えないというお答えになりますか。きょう、裁判所をお呼びしなかったのが私の失敗だということなんでしょうか。
それとも、検察側も意見を述べるわけですから、そのときも、例えばこの条文にのっとって、この被告人はまだ元気だから健康上も大丈夫だよとか、そういうようなことをやはりはっきりさせなければ、せっかくメルクマールができたのに、何となくだめだとかいいとか言っていてはしようがないように思うんですが、そのあたり、いかがでしょうか。
○林政府参考人 今回、保釈請求に対してどのような決定をするかということについて、その場合の決定における理由といいますか考慮過程というものを法的に明示するということが義務づけられているわけではございません。したがいまして、それは個々の裁判においての対応になろうかと思います。
一方で、検察官が保釈の請求に対してどのような意見を述べるかということについても、その意見の中身で必ずどの部分についてどのようにその意見の理由を書くべきである、こういったことは求められておりません。
しかしながら、実務におきましては、これは全く事案にはよりますけれども、当然、その保釈請求に対して意見を述べる以上、説得力のある理由を述べる必要がございますので、そういった理由を述べる必要がある場合におきましては、やはり今回の考慮事情に掲げられた事項については触れる形で理由を述べる場合があろうかと思います。
○重徳委員 やはり、今まで不明確だったところを明確化するという立法趣旨である以上は、実際やってみて、後で検証も可能なようにしておかなければ条文上書いただけということになってしまいますから、ここはやはり今後の勾留のあり方、ずっと議論がありますけれども、私もこれまでの委員会で指摘をしておりますが、外国から見ると拷問のような取り調べだとか、いろいろな指摘もあるわけです。それから、実際、結果的に冤罪だった、これはあってはならないことでありますけれども、人間のなすことですから、ヒューマンエラーというものはあるかもしれない。だけれども、そういうときにも必ず事後的なチェックがかけられるような運用をしなければ、同じことの繰り返しになりかねないと思います。
この法律を成立させるとすれば、この部分についての運用についてもきちんとした対応を求めたいと思います。意見を申し上げます。
それから、もう一点、保釈に関連して、少年法、少年犯罪との関係で質問させていただきます。
つい先日、毎日新聞の世論調査で、少年法の適用対象の年齢を十八歳未満というふうに引き下げるべきかどうかについて、引き下げ賛成が何と八〇%なんですね。反対は一一%にとどまるということでございます。
世論調査ですから、その時々の揺れ動く部分は非常に大きいとは思いますけれども、これは私の印象でございますが、例の川崎市や愛知県の事件でも、子供たち、少年たちの本当に陰惨な事件がここのところ多発しております。
それに対して一般の皆さんが、今回、少年法の見直しについて、十八歳、十九歳はもうすっかり成熟して立派な大人なんだから、しかるべき制裁を受けて構わないだろうというような印象じゃないと思うんですよね。未熟は未熟だ、あんな未熟者はいない、だけれども、よっぽど厳罰化しなければ、少年犯罪とはいえ、とどまることがないじゃないか、厳しく対処しろ、こういう印象で少年法の改正に賛成している人も多いんじゃないかな、このように私は捉えております。
本来は、更生保護、教育上の観点から、まだまだ立ち直るんだから、二十未満については違う取り扱いをしようということであるはずなんですが、何となく、最近の事件が確かに余りに悲惨だ、むごいということもありますが、氷山の一角かもしれない、本当に一部かどうかわかりませんが、そういった凶悪化した部分を捉えて、全ての少年が更生保護、教育といった趣旨じゃなく厳罰化するべきだというのは、ちょっと針が振れ過ぎている感じもいたします。
というのも、公選法は今度、選挙権が十八歳になります。これは十八歳でも立派な大人じゃないかという判断であろうかと思うんですね。ところが、民法の成人年齢については、同じ毎日新聞の世論調査で、賛成四四%、反対四六%なんですね。ほぼ拮抗である。民法ですから、親の同意なしで結婚できるとか、親の同意なしで契約ができる、ここまではまだ至っていないだろう、未熟だろう、こういう判断なんですよ。それから、喫煙、飲酒については、賛成二四%、反対七〇%ですね。だから、十八歳、十九歳が大人なんだよねという判断ではないと私は思っています。
そういう意味で、選挙が十八歳になったからといって全てのものを十八歳にすればいいという世論ではないのではないかな、こんな印象、感想でございます。
質問は保釈に関連してなんですけれども、私は、確かにひどい少年も昔よりはふえているのかもしれない、だけれども、まだまだ少年というのは未熟だと思っています。そういう中で、保釈において、これは文面上は全然考慮されたような文面にはもちろんなっていないわけですが、この第九十条、少年、大体イメージ的に高校生ぐらいですね、高校生ぐらいの被告人について、保釈における特段の配慮というのはあるでしょうか。あるいは、それを念頭に置いた運用をされるんでしょうか。その場合、この条文上、どのあたりからその配慮を読み取ることができるんでしょうか。
○林政府参考人 被告人が少年であるということが、保釈、特にこの刑事訴訟法九十条の考慮事情の中でどのように考慮されていくかということについての御質問だと考えます。
その上で、まず、この裁量保釈の判断に当たりましては、保釈制度の目的、機能という観点から、まずは、その被告人が成人であるか少年であるかを問わず、判断のベースとなる事情としては、勾留の目的に直接関連する事情、すなわち逃亡または罪証隠滅のおそれの程度が考慮され、その上で、身体拘束の継続により被告人が受ける不利益などに関連する事情が、個々の事案における具体的状況に応じて考慮されるものと考えられます。
他方で、少年法の四十八条一項では、「勾留状は、やむを得ない場合でなければ、少年に対して、これを発することはできない。」と規定されているわけでございます。これは、少年への保護、教育的配慮、あるいは情操の保護という観点から、少年の勾留をやむを得ない場合に限定するものと解されているわけでございます。
このような規定の趣旨を踏まえますと、少年の被告人の裁量保釈に当たりましては、事案に応じて、その少年への保護、教育的配慮、情操の保護といった観点も、本法律案の刑事訴訟法第九十条の中の「その他の事情」という形で考慮されることがあり得るものと考えます。
○重徳委員 わかりました。結論的には「その他の事情」というところなんですね。若干想定と違いましたけれども、わかりました。
いずれにしても、この少年法の問題は極めて重要な論点だと思います。いずれこの委員会でも審議対象になるかもしれませんけれども、しっかりとした責任ある議論をしていく必要があると思っております。
さて、前回まで司法取引でお聞きしたかった点、ちょっとまだ十分でなかったことについて質問をさせていただきます。
まず一つ目は、自己負罪型と捜査協力型との比較をまたさせていただきますけれども、組織犯罪の解明を目的とする捜査協力型の司法取引、この場合、捜査側からすると、典型的なパターンは、目の前にいる被疑者、被告人というのは手先の者であって、むしろ他人、組織の犯罪行為、実態解明こそが欲しい情報なのでありますね。
ですから、これまで、自己負罪型の場合はごね得だ、小出しにするとか、駆け引きをされちゃうというような御説明があったんですが、しかし、手先として実行犯をやっていた人が、誰から指示をされたとかそういう大きな情報をやはり持っているんだと思うんです。自分の罪以上に大きな情報を隠し持っている、これを何とか引き出したい、これが捜査側の意図だと思うんですね。そうすると、結局、そうはいっても、捜査側は、どの程度の情報を被疑者が持っているかわからない状態で、持っているんじゃないかな、期待したいなと思って取り調べを行っている。そして、検察官の示す条件次第でしゃべってもいいよという、完全にこれはごね得じゃないんですかね。
だから、自己負罪型はごね得だけれども、捜査協力型の場合は、そういうごね得というものはないとまではこれまでおっしゃっていなかったかもしれませんが、その違いがあるんだというような御説明も必ずしも当たらないんじゃないかと思うんですが、このあたり、どのようにお考えでしょうか。
○林政府参考人 捜査・公判協力型の合意制度におきましても、委員御指摘のとおり、例えば、被疑者、被告人側が自分のできる協力行為を前提とした場合に、その相当と思われるものよりも有利な取り扱い、相当とされる有利な取り扱いよりもさらに有利な、あるいは過大なものを検察官に要求するということは生じ得ると思われます。当然、それにつきましては、検察官において、その場合に合意をするか否かの判断を慎重に検討することとなろうと思います。
自己負罪型の場合に特にごね得という懸念が出てくるのは、やはり、自己負罪型を設定したときには、その対象となる被疑者、被告人は、全て自分の犯罪というものについての協力行為というものはみんながなし得るわけでございますので、交渉として出してくる協力行為として皆が出し得る立場にあるものですから、そういったごね得というようなことが生じやすい、そういうことを自己負罪型でごね得という懸念があるということで言われているんだろうと思います。
○重徳委員 事件もケース・バイ・ケースですから、ちょっと想定し切ることはできないんですが、私が言いたいのは、余りあっさりと、自己負罪型はごね得だけれども捜査協力型はそんなことはないんだとか、自己負罪型は専ら裁判の効率化を目的とするものであって捜査協力型はそうじゃないんだとか、そういうすぱっと二分できないんじゃないかということについては、前回の御答弁の中でもやはり必ずしもというお話もありましたので、御理解いただいているというか、共通認識にはなっているとは思うんです。
ちょっと最初のころの答弁だとどうも納得しかねた部分があるものですから、その辺の違いも、絶対的なものというよりは相対的な違いであり、ケース・バイ・ケースだということだと認識をいたしましたので、余りすぱっと違うんだということは、これから余り用いることのできない論法ということになるのではないかなというふうに思っております。
さて、それから、ちょっと司法取引というのは正直よくわからないことがいろいろとあるわけなんですけれども、組織犯罪、企業犯罪というものを念頭に置かれているわけですから、会社の中でも知っている人は複数いる、それからランクもいろいろだ、意思決定をする社長さんとか役員クラスの人から、日々偽装牛肉を売りまくっていた営業担当とかそういう人たちまで、いろいろなレベルがあるわけです。そして、複数の人たちがその情報を知っているという状況が大いに想定されるということなんですね。
であると、同じ情報を複数の人が持っている、自分も知っているけれども、あいつも知っている、社長も知っているとなったら、自分の持っている情報が価値のあるうちにしゃべった方が絶対自分が助かる、こういう心理に当然なると思うんです。駆け込み競争のような状態が起こり得るんじゃないか。
それはそれで捜査側としては別にいいじゃないかという思いもあるのかもしれませんけれども、そうはいっても、司法取引制度の公平性、信頼性につながってくる話ですので、やらせておけばいいんだよという話ではないような気もいたしております。
この辺の取り扱いの優先順位とか公平性について、どのようにお考えなんでしょうか。
○林政府参考人 御指摘のとおり、合意制度は、多数の者が関与する組織的な犯罪等の解明を図るために利用されるものでございますので、同じ犯罪に関与した複数の被疑者がいて、検察官に対して複数の被疑者から協議、合意の申し出がなされるということはあり得るものと思われます。
もっとも、同じ犯罪に関与したとしましても、その関与状況というのは、もとより、さまざまでございまして、犯罪の遂行の過程を通じて認識し得る事柄も当然に異なるわけですので、したがって、検察官に提供し得る情報の内容あるいは信用性なども、当然、被疑者ごとに異なってくるわけでございます。
したがいまして、複数の被疑者から検察官に対して協議、合意の申し出がなされた場合において、検察官としては、そもそも、協議をそれぞれと開始するのか否か、また、どの被疑者との間で協議を開始するかについて、関係証拠を踏まえながら、慎重に判断することとなろうかと思います。
その上で、協議を開始した後も、その被疑者に対して供述を求めて、可能な範囲で裏づけ捜査をしつつ、各被疑者の刑事責任の大小も考慮しながら、合意するか否か、また、どの被疑者との間で最終的に合意をするかということについても慎重に判断していくこととなろうかと思います。
したがいまして、複数の被疑者から検察官に対して協議、合意の申し出がなされたといたしましても、また、その際に、御指摘のように先を争うような事態というものが仮に生じたといたしましても、例えば先に申し出があった者を優先的に取り扱うといった形で形式的に優先順位が設けられるようなことはないと考えております。
○重徳委員 これもやってみなきゃわからない感じもしますけれども、同じ組織の中での情報ですから、他者の行為について供述することが自分とは全く関係ないとは限らないし、しゃべればしゃべるほど、人の犯罪も暴くことになるかもしれませんが、自分にもはね返ってくるということもあり得ますし、いろいろなケースがあるのではないかなと思います。
それから、これも想像の世界なので当たっているかどうかもわからないんですが、例えば、会社、法人としての会社も司法取引の主体たり得るということでございますので、会社が、捜査に協力します、そのかわり罰金刑をまけてくれ、こういう立ち位置に立った。その場合は、会社ニアリーイコール社長あるいは役員、意思決定者ということである、そういう個人がいるわけですよ。
つまり、わかりやすく言うと、会社と社長、そして実行犯というか、いろいろさせられていた社員がいるという状況になったときに、やはり、会社として司法取引を始めるとなると、これはもう圧倒的に社長さんがわかっている情報の方が多いわけですし、そのときに、社員さんが置いてきぼりになるというか、司法取引をする上でも不利益をこうむるというような状況も生じ得るんじゃないかと思います。いわゆる組織の論理ですね。結局、偉い人は逃げ得だということもあり得る。
これは、そういうことも含めて、検察の方で公正な合意に持っていけるのであればいいんですけれども、なかなか大変なことだと思いますし、いろいろなさらなる事件、二次被害のようなことが起こってくるんじゃないかと思います。
このあたり、どのようにお考えでしょうか。
○奥野委員長 林局長、時間が来ていますから、短くお願いします。
○林政府参考人 結局、どのように実務が推移するかということになるかと思いますけれども、被疑者である役員や会社からまず検察官に対して合意の申し入れがなされるということはもちろんあり得るものだと思いますけれども、合意制度は、組織的な犯罪等の解明を図るために利用されるものでございまして、末端の実行者を初めとする下位の関与者から首謀者等の上位の関与者に関する供述等を得ることを主眼とするものであることからしますと、そういったケースにおきまして、従業員ではなく役員あるいは会社の方とまず合意をするということは通常は考えがたいものと思います。
○重徳委員 いろいろなケースがあると思います。やはりそういうふうに言っていただかないとわからない部分というか、これとて、きょうの質疑にもありますけれども、今の林局長の解釈、御判断はそうかもしれないが、法文上書いてない以上はわからないじゃないかというのが今回の刑訴法上いろいろな場面で出てきていると思います。
こういったことは、各委員みんなで、いろいろなところの指摘をずっとこの後も続けていきたいと思います。
きょうはありがとうございました。